AIもRPAも導入したのに、なぜ“建設DX”は進まないのか?
リード(導入)
朝の詰所。机の上には三色ボールペン、折り畳まれた図面、そして開きっぱなしのExcel。
「OCRは読めてるんですよ。でも“同じもの”だと判定できない」。ある総合工事会社の原価担当は、そう言ってモニターに並ぶ請求書を指さした。AIもRPAも入れた。けれど締め日は、いつも人の目が最後の砦になる――。建設DXの足が止まるのは、技術が未熟だからではない。整っていないのは、運び方と言葉のそろえ方だ。
「読める」と「そろう」の間に、深い溝がある。
―― 現場の共通実感
現場ルポ:詰まるのは“読み取り”のあと
見積、契約、予算、出来高、請求。書類は川のように流れているはずなのに、ところどころで堰き止められる。
堰の正体は、表記揺れ(㈱/(株)/株式会社)、粒度の差(内装/内装工事)、版差替えの行方不明だ。AIは文字を拾える。RPAは手順を反復できる。だが“同一化”と“例外の確定”を誰が、いつ、どうやって行うのか――そこが設計されていない。
- 「山田工業」「山田工業(株)」「㈱山田工業」が同一取引先だと、誰が宣言する?
- 図面が差し替わったとき、影響する見積や予算にどう通知する?
- 未一致の品目に対し、候補提示→人が確定→翌日自動化の道筋はある?
現場は、“最後の1割”の判断で疲弊している。
解説:DXが進まない“構造”
① データがそろわない
命名規則・版管理・正規化辞書が後回し。AIは読めても、意味がつながらない。
② プロセスがつながらない
見積→請求のキー項目がバラバラ。照合の自動化が成立しない。
③ 例外の受け皿がない
「未一致」を誰がどう確定するかのランブック(運用台本)が欠落。
④ 変更管理が追いつかない
差替えの履歴と影響範囲が追えず、古い情報が自動処理に紛れ込む。
サイドコラム|“Excel罠”の正体
- 同義語の洪水:「AC100V/100V」「電線/ケーブル」
- 略称の繁殖:「内装」「内装工」「内装工事」
- 人名・会社名の揺れ:「㈱」「(株)」「株式会社」
- 数量×単位の地雷:「本/台/式」
解は単純だ。正規化辞書(意味の統一)と許容ゆらぎ表(表記の統一)を分けて持つ。混ぜると事故る。
実務の型(読み物版・最小限の“3つの約束”)
- 名前を決める
案件ID_文書種別_YYYYMMDD_版_相手ID で強制。上書き禁止、版は必ず+1。 - 言葉を決める
取引先/工種/品目の正称を1つ決め、別名は“別名リスト”に追放。 - 例外を台本化
未一致→候補Top3提示→人が確定→判断ログへ。翌日から自動で通す。
ルールは“最小限”でよい。守れる小ささで始め、翌日もっと賢くなる仕組みを優先する。
取材ノート:PoCが“本番で崩れる”瞬間
PoCでは綺麗なサンプルと限定条件で高精度が出る。だが本番は増殖する例外が日常だ。
編集部が各社を取材する中で、成否を分けたのはゲート基準を事前に合意していたかどうか。
- 突合自動完了率:初期60% → 90日で80%
- 人手修正の再発率:30日比で▲50%
- 版追従遅延:差替え→最新反映まで24h以内
- 辞書更新SLA:新語採択→展開48h以内
数値は“約束”だ。約束があるプロジェクトだけが、PoC疲れから抜け出した。
小さな成功例(短編)
Case A:請求突合の沼から這い上がる
略称乱立で締めが遅延。辞書v0+候補選択+判断ログを導入し、60日で自動完了率58%→83%。締め遅延はゼロに。
Case B:差替え事故に終止符
版管理を徹底し、差分検出→影響文書に通知。旧版単価の発注ミスが月5件→0件。やり直し工数▲80h/月。
データで読む:建設DXのKPIツリー(要点だけ)
- 主KPI:突合自動完了率(↑)
└ 正規化辞書命中率(↑)/版追従遅延(↓)/人手修正再発率(↓) - 副KPI:1案件処理時間(↓)、締め翌営業日完了率(↑)、新語SLA遵守(↑)
ROIの目安
月2,000通 × 6分/通 × 自動化70% ≒ 1,400h/年削減
時給(間接費込み)3,250円 → 約455万円/年+誤請求防止等で+120万円
ツール/運用300万円 → 純効果:約275万円/年
見取り図:30→90→180日の歩き方
- Day1–30:見積+請求だけに絞る。命名・版・辞書v0と“朝会5分レビュー”。
- Day31–90:予算・出来高へ横展開。KPIダッシュボードで再発の芽を摘む。
- Day91–180:差分検出と影響通知を仕組み化。高頻度例外はルール昇格。
結語(編集後記)
DXは、壮麗なシステムのことではない。毎日少しずつ賢くなる運用のことだ。
「読めた」だけでは現場は救われない。“そろえて、つなげて、明日はもう一段賢く”――地味だが最短の道筋である。
用語メモ(最少)
- 正規化辞書:意味の同一化。主語を一つに。
- 許容ゆらぎ表:表記の同等化。㎜=mmなど。
- 判断ログ:誰が・何を・なぜ確定したかの記録。翌日の自動化資産。
(小さな告知)Connected Baseの“使いどころ”
紙・Excel・PDFを自動分類→抽出→正規化→突合。未一致は候補提示→1クリック確定→判断ログ学習で、翌日から自動化範囲が広がる。
見積~請求の横串、版差分検出、電帳法向けの監査トレイルまでを一枚でつなぐ。
Connected Baseのご紹介
「AI-OCR」「RPA」から
“LLM+人の判断”の再現へと移りつつあります。
Connected Base は、日々の見積書・請求書・報告書など、
人の判断を必要とする“あいまいな領域”を自動で処理し、
現場ごとのルールや判断のクセを学習していくAIプラットフォームです。
これまで人が時間をかけて行ってきた仕分けや確認を、
AIとルール設定だけで再現・蓄積・自動化。
単なる効率化ではなく、「判断の継承」まで含めたDXを実現します。
現場の知恵を未来につなぐ──
その第一歩を、Connected Baseとともに。



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