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建設業のExcel地獄① ― なぜ見積は毎回やり直しになるのか。

「またExcelか……」
見積の時期になると、現場も内勤も、同じセリフを口にします。

PDFで届く見積書。メールに添付されたExcel。写真で送られてくる内訳。
それらを集めて、転記して、並べて、差分を見て、上書きして、また差分が出て——。

なぜ建設業の見積は、“毎回やり直し”になるのか。
これは単なる「フォーマットが揃っていないから」ではありません。もっと根が深い話です。

1. 見積の仕事は「集計」ではなく「再構築」

見積の作業って、外から見るとこう見えがちです。

  • 見積を集める
  • 数字をまとめる
  • 最安を選ぶ
  • 発注する

でも実態は、ほぼ逆です。
現場がやっているのは「集計」ではなく、バラバラな情報を“同じ土俵に乗せる”再構築です。

  • そもそも項目の粒度が違う(材工/材のみ/一式/日当)
  • 同じものでも呼び方が違う(ケーブルラック/ラック/Cラック…)
  • どこまで含むかが会社ごとに違う(運搬費・諸経費・養生・仮設)
  • 単価の前提が違う(夜間・搬入制限・現場条件)

つまり、見積は「数字の比較」ではなく、前提条件の翻訳と整地が本体なんです。


2. “フォーマットを統一すれば解決”が、だいたい失敗する理由

よくある正論があります。

「見積フォーマットを統一しましょう」
「テンプレを配って、同じ形で出してもらいましょう」

もちろん、やったほうが良い。
でも、それで地獄が終わるかというと、だいたい終わりません。

理由はシンプルで、揃えるべきは“見た目”ではなく判断の前提だからです。

フォーマットを揃えても、こういう差は残ります。

  • 書き手の意図(これは含めた/これは別途です)
  • 条件の抜け(現場側は当然と思っているが、見積側は書かない)
  • 例外の発生(この案件だけ、ここだけ、急ぎだけ)

結局、テンプレを配った瞬間から次のExcelが増えます。

  • 「テンプレだと書けないので別紙です」
  • 「ここは備考欄に書きました」
  • 「納期が厳しいので条件付きです」
  • 「仕様が未確定なので暫定です」

そして、現場はまた“整地”を始める。


3. 見積が毎回やり直しになる「3つの構造」

① 情報が“後から”増える

建設は未確定情報のまま進みます。
見積の前提条件が、後から後から更新される。

  • 図面が更新される
  • 仕様が変わる
  • 施工条件が変わる
  • 元請の指示が変わる

見積のExcelは、完成物じゃなくて“途中経過のメモ”になりがちです。
途中経過で比較し、途中経過で発注判断する。だからやり直しが起きる。

② 比較対象が“同じ単位”ではない

A社は「一式」、B社は「内訳」、C社は「材工分離」。
数字だけ見ても、比較にならない。

比較するために、現場側で“勝手に”単位を揃えます。

  • 一式を分解する(できる範囲で)
  • 内訳を束ねる(比較しやすいように)
  • どこまで含むかを読み取る(備考・文脈・経験)

ここで必要なのは計算ではなく、読解と判断です。

③ 最終的に必要なのは“金額”ではなく“説明”だから

見積は「安いところに発注」で終わりません。
社内稟議・施主説明・発注根拠・コスト管理——説明責任が残る。

つまり必要なのは、

  • なぜこの会社にしたのか
  • なぜこの金額なのか
  • 何が含まれていて、何が別途なのか
  • どの条件で成立するのか

Excelはその説明をするための“台本”にもなります。
だから、綺麗に揃え直す作業が発生します。毎回。


4. Excel地獄の正体は「転記」ではない

世間のイメージだと、Excel地獄=「転記が多い」になりがちです。
でも本当は違います。

地獄の本体は、これです。

  • 判断をExcelに押し込めている
  • 判断の根拠が文脈に散っている
  • その文脈が毎回変わる

だから、同じ作業をしているようで、毎回新規案件になる。
“やり直し”ではなく、正確には “毎回作り直し”です。


5. じゃあ、どうすればいいのか(次回予告)

「Excelを捨てましょう」なんて言いません。
現場にとってExcelは、最強の“最後の砦”です。

ただ、ひとつだけ確かなことがあります。

見積のやり直しを減らすには、フォーマット統一より先に、

  • どこで人が判断しているか
  • 判断の前提がどこにあるか
  • 例外がどのパターンで出るか

を“見える化”しないと、何を自動化しても崩れます。

次回(②)では、
「なぜ比較表は増殖するのか」「差分チェックが終わらない理由」を、もう一段深掘りします。


もしよければ、あなたの現場の“あるある”も教えてください。
「一式地獄」「備考地獄」「最終版_最終_本当の最終.xlsx」など、どの地獄でも歓迎です。

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ベイカレントにてIT・業務改善・戦略領域のプロジェクトに従事。その後、株式会社ウフルにて新規事業開発を担当し、Wovn Technologiesでは顧客価値の最大化に取り組む。AIスタートアップの共同創業者としてCOOを務めた後、デジタルと人間の最適な融合がより良い社会につながるとの想いから、株式会社YOZBOSHIを設立。2022年2月より現職。