建設業のExcel地獄② ― フォーマット統一では救えない理由。
「フォーマットを統一すれば、見積は楽になる」
この話、建設業界では何度も出てきます。実際、テンプレを作り、配り、運用ルールも決める。努力もコストもかかっている。
それなのに——現場のExcelは減らない。
むしろ、“統一したはずなのに、別紙と例外が増える”。
なぜか。
答えは単純で、見積の混乱の原因は「書式」ではなく、判断のズレだからです。
フォーマット統一は「入口の整備」には効くけれど、見積地獄の本体である「意味の揺れ」には効かない。
1. フォーマット統一が効く範囲は、実は狭い
まず正直に言うと、フォーマット統一は無駄ではありません。
- 見積書の最低限の項目が埋まる
- 会社名・現場名・工期などが揃う
- 内訳の抜けが減る
- 転記の手間が少し減る
でも、ここまでです。
「比較」「判断」「説明」に入った瞬間に、フォーマットの効果は急激に薄まります。
なぜなら、見積で揉めるのはいつも「数字」ではなく “その数字が何を含んでいるか” だから。
2. “統一できないもの”が見積の中心にある
見積が毎回やり直しになる最大の理由は、ここです。
① 含む範囲が会社ごとに違う
同じ「一式」でも中身が違う。
- 養生は含む?別途?
- 仮設は含む?別途?
- 運搬費はどこに入ってる?
- 諸経費は別行?内包?
フォーマットが同じでも、書く人の常識が違えば意味が変わる。
② 粒度が違う(内訳が揃わない)
同じ工種でも、ある会社は細かく、ある会社は粗い。
- A社:配線・端末・試験まで分解
- B社:電気工事 一式
- C社:材料だけ細かく、施工は一式
この時点で「比較表」を作ろうとした瞬間に、現場はExcelで再構築を始めます。
つまり、比較という行為自体が“フォーマット破壊”なんです。
③ 条件が後出しで増える
建設は未確定を抱えたまま進むので、前提は変わる。
- 図面改訂
- 施工条件変更
- 工期変更
- 搬入制限
- 夜間対応
フォーマットは“確定した情報”に強い。
でも、見積は“揺れている情報”が中心。だから、統一が追いつかない。
3. フォーマット統一が「例外地獄」を生むメカニズム
フォーマットが配られると、必ず起きる現象があります。
「テンプレだと書けないので、別紙で補足します」
なぜこうなるか。
テンプレは「全案件で共通の記入欄」を作るから、
その枠から外れる瞬間に、“例外”が発生する。
- 特殊な条件(搬入・仮設・夜間・安全対策)
- 特殊な前提(支給材、元請負担範囲、責任分界点)
- 特殊な工程(段取り替え、短納期、部分先行)
これらは見積の本質に近い情報ほど、テンプレに乗りません。
そして最終的に、現場の手元にはこういうファイルが増えます。
- 見積テンプレ.xlsx
- 見積補足_別紙.pdf
- 条件整理_社内メモ.xlsx
- 差分チェック表.xlsx
- 稟議説明用_まとめ.xlsx
統一のために、Excelが増殖する。
これが“フォーマット統一の罠”です。
4. 本当の問題は「書式」ではなく“意味”が揃っていないこと
現場が苦しんでいるのは、テンプレの不足ではありません。
苦しんでいるのは、
- その行が「何の費用」なのか
- それは「含む」のか「別途」なのか
- それは「条件付き」なのか
- それは「責任範囲」なのか
という “意味の読み取り” です。
これは、Excelの列を揃えても解決しません。
見積地獄の本体は、
人間の頭の中にある“暗黙の判断”が、書類の外に散らばっていること。
だから、フォーマットで救えない。
5. じゃあ何を揃えるべきか:フォーマットより先に“判断点”を揃える
もし本気で楽にしたいなら、統一すべきは「書式」ではなく、次です。
✅ ① 判断が発生するポイント(判断点)の定義
- どこで含む/別途を決めるのか
- 粒度の違いをどう揃えるのか
- 条件差分をどう扱うのか
✅ ② “前提条件”の管理方法
- 図面改訂の影響範囲
- 条件変更の履歴
- どの見積がどの前提で出たか
✅ ③ 例外を「例外」として扱える構造
例外をなくすのではなく、
例外が出ても処理できる仕組みを用意する。
6. 次回予告:Excelが増殖する「比較表地獄」の正体
フォーマット統一は入口の整備。
でも地獄が始まるのは、比較フェーズです。
次回(③)では、
- なぜ比較表が増殖するのか
- なぜ差分チェックが終わらないのか
- なぜ「最終版」が無限に増えるのか
この“比較表地獄”の構造を解剖します。
もしあなたの現場でも、 「テンプレ配ったのに別紙が増えた」 「フォーマット運用会議の方がコスト高い」 みたいな話があれば、ぜひ聞かせてください。
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