AIを入れても、人の仕事がなくならない理由
「AIを入れれば、人は減らせる」
そう言われ続けて、もう何年経ったでしょう。
ChatGPTやCopilot、AI-OCR、各種自動化ツール。
できることは確かに増えました。スピードも上がった。見た目も整う。
それでも現場では、こういう声が消えません。
- 「結局、最後は人が見てる」
- 「むしろ確認が増えた」
- 「“仕事がなくなる”というより、仕事の形が変わった」
じゃあ、なぜAIを入れても“人の仕事”はなくならないのか。
今日は、現場の実感に寄せて言語化してみます。
1. AIは「判断の責任」を引き受けない
AIは提案します。
でも、責任は取りません。
たとえば見積の明細をAIが読み取って、項目を揃えて、合計まで出してくれる。
ここまでなら、かなりの確率でいける。
でも現場が本当に困るのは、こういう場面です。
- この「一式」は、どの範囲を含んでる?
- この単価は、前回の案件と比べて妥当?
- この協力会社の表記ゆれは、同じ品目としてまとめていい?
- この“注記”は、条件なのか、ただの補足なのか?
ここに入った瞬間、必要なのは計算ではなく判断になります。
判断には、背景があります。
過去の経緯、取引関係、社内ルール、暗黙の前提、そして「炎上したら誰が謝るか」。
AIはそこまで背負いません。
背負うのは、いつも人です。
2. 現場のデータは、そもそも「綺麗」じゃない
AIが得意なのは、整った入力に対して、整った出力を返すことです。
でも現場の入力は、だいたいこうです。
- PDFのレイアウトが会社ごとにバラバラ
- 表の書き方が統一されてない(そもそも表じゃない)
- 記号や略語が現場ローカルすぎる
- “余白”や“手書き”に重要情報がある
- 同じ意味なのに表現が毎回違う
つまり現場の仕事は、AIのために「データを綺麗にする」ことではなく、
綺麗じゃないまま進めなきゃいけないことに本質があります。
AIは進化しても、入力側の現実はすぐには変わりません。
むしろ、現実が複雑なほど「人の補助線」が必要になります。
3. AIで増える仕事がある。「確認」と「例外処理」
AIを入れると、仕事が減るどころか増える瞬間があります。
それが、確認と例外処理です。
AIはだいたい合ってる。
でも、だいたい合ってるのが一番厄介です。
- 100件中、97件は正しい
- でも、3件が致命的に間違っている
- その3件を見抜けなかったら事故る
こうなると現場は「全部見る」になります。
結果、AIが出したものを人がチェックする工程が、しっかり残ります。
しかも例外は“現場の都合”で発生します。
- 今回だけの条件
- 過去トラブルの再発防止
- 特定顧客の独自ルール
- 上司の判断、顧客の気分、納期の都合
例外は、システムの外側から飛んできます。
そして例外対応こそ、現場のプロがやっている仕事です。
4. 「人の仕事」は、作業ではなく“意味づけ”に移動する
ここまでをまとめると、こう言えます。
AIでなくならないのは、「作業」じゃなくて「意味づけ」の仕事です。
- これは何を指しているのか
- これはどのルールに従うべきか
- これはそのまま処理していいのか
- これは誰に確認すべきか
- もし間違えたら、どこが燃えるのか
つまり現場の仕事は、もともと“単純作業”だけじゃない。
単純作業に見えて、その裏に判断が折り畳まれている。
AIはその折り畳まれた判断を、まだうまく扱えない。
だから仕事は残る。形を変えて残る。
5. 「AI導入=人を減らす」発想が、現場で噛み合わない理由
現場にAIを入れるとき、
経営側が期待するのは「人件費削減」になりがちです。
でも現場側の実感は、たぶんこうです。
- 人を減らすより、事故を減らしたい
- スピードより、手戻りを減らしたい
- 属人化をなくすより、再現できる形で残したい
現場の怖さは、「遅い」より「間違える」ことにあります。
そして間違えたとき、損するのは現場です。
だから現場はAIに期待しつつ、最後の判断を手放さない。
これは保守的だからではなく、
仕事の責任構造がそうなっているからです。
6. じゃあAIは何のために入れるのか?
ここまで読むと、「じゃあAI入れても意味ないじゃん」と感じるかもしれません。
でも意味はあります。
ただしゴールが違います。
AIの価値は、「人を消す」ことではなく、
- 判断の前段を整える
- 判断に必要な材料を揃える
- 判断の履歴を残して再利用できるようにする
つまり、人の判断を強くする方向にあります。
AIがやるべきなのは、人を置き換えることではなく、
“現場の判断が回る状態”を作ること。
これが噛み合うと、現場は楽になります。
そして結果として、余った時間が「本当に価値のある仕事」に回ります。
おわりに:仕事がなくならないのは、希望でもある
AIが進化しても、人の仕事がなくならない。
これは悲観ではなく、むしろ希望だと思っています。
なぜなら、最後に価値を決めるのは、
「正解を出す力」ではなく「正しく判断する力」だからです。
AIが得意なことは増える。
でも現場が必要とするのは、いつも“状況に応じた判断”。
その判断が残る限り、人の仕事は残ります。
そしてその判断こそ、経験の価値であり、仕事の本質です。
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