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積算担当は、“現場の詩人”だ。

――数量を拾い、単価を当て、原価を積む。
やっていることはロジックの塊なのに、なぜか仕上がりには人の“手ざわり”が残る。
だから私は、積算担当は“現場の詩人”だと思っています。

詩人は言葉で世界を編み直す。
積算担当は数字で現場を編み直す。
同じ図面でも、読み取り方しだいで構成は変わるし、迷いの跡が最終見積の「説得力」をつくる。今日はその話を、少し肩の力を抜いて。

1. 「数字だけ」の仕事じゃない

積算を“計算係”と誤解されることがあるけれど、本質は現場の物語づくりだ。
図面の余白、注釈の癖、工程の段取り、職人さんの呼吸――それらを数字の文法で並べ替え、矛盾なく一貫する形に整える。

  • 同じ「一式」でも、背景にある“段取りの難しさ”を読み取れた人の見積は強い
  • 歩掛りは過去の平均値じゃない。現場制約×人の熟練で揺れる、生き物だ
  • 「この数量の切り方は、後工程が泣くかも」という先回りの気配りが、あとで効いてくる

ここに“詩心”が宿る。数式だけでは説明できない、整合と納得のリズムが生まれるのです。


2. ベテランが“見ただけで”違和感に気づく理由

「この金額、なんか軽い」
「この歩掛り、現場の人が苦笑いするやつ」
あの一瞬の直感には、無数の比較参照が折り畳まれている。

  • 似た工種・似た制約の案件での“良い/悪い汗”の記憶
  • 図面の書き方の癖と、実際の出来形のズレ
  • 運搬・仮設・養生といった“目に見えにくい手当”の積み漏れパターン

詩人が語彙を増やすように、積算担当は事例の語彙を増やしている。
経験の差は“語彙量の差”であり、そのまま違和感検知力になる。


3. 積算の“リズム”は迷いの記録から生まれる

見積が弱くなるのは、たいてい迷いの跡が消えているとき。
「AかBかで悩んだ」「条件Cが不確定なので安全側に寄せた」――こうした判断の分岐ログが、後でチームを守る盾になる。

おすすめは、判断の跡を短い日本語で残すこと。

  • 迷ったポイント:設備干渉の可能性 → 追加手間10%上乗せ
  • 根拠:過去案件(2024-09 渋谷PJ)で同様事象/現場指摘あり
  • 不確定要素:夜間搬入制約の有無 → 要現場確認(担当:山田、期限:11/5)

「完璧な様式」にしなくていい。
詩人が下書きを恐れないように、積算担当も“迷いの素描”を残す。
その素描が、次の見積で
経験値として再利用できる。


4. 積算“あるある”の正体

  • 「一式」の魔法に頼りすぎ問題
    → 一式は“関係者間の了解”が前提。了解の言語化がないと、あとで争点になる。
  • 数量の切り方が、工程の地雷を仕込む
    → 美しい表の行構成ほど、裏で仮設や運搬が悲鳴を上げていないか要注意。
  • 過去単価の平均が安心を生む錯覚
    → 平均は“誰の責任も問わない値”。現場要因の揺れを上書きしてしまう。
  • 写真と現調メモは“第二の図面”
    → 図面の余白を埋める現実の情報。数量より先に、制約の雰囲気を読む。

5. 詩人の三道具:比喩・リズム・編集

  • 比喩:現場の難しさを“誰にも伝わる言葉”に置き換える
    • 例)「ここは人ひとり通れるかどうかの幅。搬入は“蟻の行列”運用」
  • リズム:工程・手配・支払いの時間の拍で数量を整える
    • 例)3回戦で持ち込む/2工程跨ぎで待ち時間発生
  • 編集:関係者の優先度に合わせて表現の段階を変える
    • 例)経営層には“意思決定の争点”だけ、現場には“段取りの注意点”を濃く

この三道具が揃うと、見積は読む人を動かすドキュメントになる。
数字の整合と、意思の伝達が同時に達成されるからだ。


6. 今日からできる“積算の詩作トレーニング”

  1. 迷いログを3行で残す
     「迷い → 取った選択 → 根拠(案件名/日付)」の三点セット。
  2. “足りない汗”チェック
     仮設・搬入・養生・役所対応・近隣調整…“汗項目”の定型リストを最後に撫でる。
  3. “写真1枚+一言”ルール
     現場写真に一言キャプションを付ける(例:「曲げ半径がきつい」)。後で効く。
  4. 似案件の“差分だけ”比較
     丸ごと比較ではなく、差分3つに絞って根拠を明確化。
  5. 他者レビューは“問い”で受ける
     「どこが弱い?」ではなく「どこで事故る?」と聞く。回答が実務的になる。

7. 若手へ:あなたの“語彙”は現場で増える

図面の線の太さ、注釈の言い回し、発注者の口癖、職人さんのぼやき。
それらはすべて、あなたの積算語彙になる。
語彙が増えるほど、違和感の解像度が上がり、見積が“歌いはじめる”。

焦らなくていい。詩人も最初は短い句から始める。
まずは短い迷いログ写真の一言から。
“詩心”は、積み重ねた現場の汗から立ち上がる。


8. 結び:数字で現場を守る人へ

積算担当は、会社の利益を守り、現場を守り、関係者の信頼を紡ぐ見えない前線だ。
あなたの一行メモ、あなたの一枚の写真、あなたの小さな違和感が、
明日の損失を防ぎ、来月の笑顔を増やす

だからやっぱり、積算担当は“現場の詩人”。
今日も、良い一首(=良い見積)を。


付録:3行ログの簡易フォーマット(コピペOK)

  • 迷い:______________
  • 選択:A/B(採用:_)理由:______
  • 根拠:案件名____(年月)/写真No.__/担当メモ____

必要なら、これをOneNote・Notion・スプレッドシートのどれでも。
大事なのは“残すこと”。詩は、下書きから始まる。

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ベイカレントにてIT・業務改善・戦略領域のプロジェクトに従事。その後、株式会社ウフルにて新規事業開発を担当し、Wovn Technologiesでは顧客価値の最大化に取り組む。AIスタートアップの共同創業者としてCOOを務めた後、デジタルと人間の最適な融合がより良い社会につながるとの想いから、株式会社YOZBOSHIを設立。2022年2月より現職。