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建設業から考える、建設業だけではない社内購買価格標準化とは?

正直に言います。
見積が三つ揃っても、比べられなければ意思決定は進みません。
そして「比べられない」最大の理由は、価格の妥当性ではなく——“単位・粒度・言い方”が揃っていないからです。

建設の現場って、同じ工種でも「1式」「m²」「材工込」みたいに出方がバラバラ、よくありますよね。並んだExcelを前に換算が始まった途端、比較は手計算へ逆戻り。そこで疲れて、決断は結局「経験」に寄りかかってしまう——そんな流れが起きます。

でも、この“揃わなさ”は建設だけの話じゃない。
製造の部材調達でも、物流の運賃契約でも、情シスのSaaS契約でも、名前が違い、単位が違い、前提が違う。だから、組織は“賢い買い物”のチャンスを何度も取り逃がしてしまうのです。

「価格の標準化」って、“安く買う”ことじゃない

誤解しないでください。価格の標準化は、闇雲に安値を叩く話ではありません。
標準化とは、“比較可能という権利”を現場に取り戻すこと。

  • 同じ土俵で並べる(単位・粒度・含み/除外の明記)
  • 違いが数字に映る(換算・正規化のルール)
  • 例外は例外として残す(事情のログ化)

この3点が揃うと、意思決定は速く再現可能になり、説明可能になります。上司への承認は短く、経理との齟齬は減り、粗利は底上げされます。つまり、現場を強くする仕組みなんです。


建設から学ぶ“価格の骨格”は、あらゆる業種で通用する

建設では、価格の背景に工種 × 地域 × ランク × 数量レンジ × 含み/除外が存在します。
これを製造に写すと、品目 × 仕様 × ロット(MOQ)× リードタイム × インコタームズ/検査条件になります。
物流なら距離 × 重量 × 容積 × 地域 × 付帯作業
SaaS購買なら席数 × プラン × 契約年数 × オプション

“骨格”は同じなのです。違うのは言語だけ。だからこそ、語彙を整える(マスタ化)単位を合わせる(正規化)だけで、部門も業種も横断した比較が可能になります。


よくある落とし穴(そして回避策)

  1. “1式”の罠
  • 落とし穴:内訳が飲み込まれて、比較不能。
  • 回避策:内訳必須ルール換算キー(m、m²、式の相互換算表)を用意。
  1. 表記ゆれの泥沼
  • 落とし穴:「鉄骨工」「S造」「鋼構造物」で別物扱い。
  • 回避策:共通語彙辞書(別名・略語・旧称を同義マップへ)。
  1. “安い=正義”の誤解
  • 落とし穴:工期・仕様・保証条件の差が消える。
  • 回避策:含み/除外/条件のメタデータ化と、“価格÷条件”の指標化
  1. Excel地獄
  • 落とし穴:最新がどれか分からない、関数が壊れる、人が壊れる。
  • 回避策:原本はファイル、意思決定はデータ。ファイルの上に抽出・正規化レイヤを置き、比較はテーブルで行う。

6ステップで進める「比較可能化」ロードマップ

Step 1|目的の一枚化
スピード?ガバナンス?粗利?——優先KPIを1つに絞る。例:入札~実行予算のリードタイム30%短縮

Step 2|入力を整える(抽出)
PDF・Excel・画像から固定項目(発行元、日付、金額)と明細を確実に抜く。
AI-OCRやLLMを使うなら、“唯一絶対ルール”で推論禁止・原文優先を徹底。

Step 3|語彙を揃える(正規化)
工種/品目の同義語辞書、単位換算、含み/除外のタグ化。
属人判断はルールに翻訳して辞書へ蓄積。

Step 4|比較の土俵を設計
“最安”ではなく、“条件付きの最適”を可視化するスコアリング。
例)価格、工期、実績、地域協業、品質クレーム率の重み付け

Step 5|例外の設計
例外は悪ではない。“なぜ例外にしたか”をログ化し、次回の辞書更新に回す。
例外承認のSLA(誰が、何時間で、何を見て通すか)を明文化。

Step 6|振り返りと改定
毎月、“最適価格からの乖離”を棚卸し。
市況変動・原価改定・為替を反映して基準ラインを更新


90日プラン:まずはここから

Day 1–10|カテゴリを絞る
建設なら「内装仕上」や「躯体」。製造なら「標準部材」。勝ち筋が出やすい1カテゴリに集中。

Day 11–30|語彙辞書の初版
現行見積50件を解析して、“同じなのに違う”名前を統合。単位換算表をつくる。

Day 31–60|比較テーブルの運用開始
新規見積は自動で比較テーブルへ流す。条件タグ(含み/除外/保証/工期)を必須入力に。

Day 61–90|例外レビューとKPI発表
例外理由を5つに類型化。承認時間の短縮粗利率の底上げなど、1つでも成果を数字で出す。


想像してみてください

  • 見積メールが来た瞬間、自動で抽出され、同じ土俵に並ぶ
  • 担当者は、“比べる”のではなく“選ぶ”ことに時間を使える。
  • 決裁は数字と条件の1枚で終わる。
  • 半年後、「例外」だった案件の半分は“標準”になっている

これは理想ではなく、ルールと仕組みで実現できます。建設で鍛えられた“骨格”を持ち込めば、他部門にも、他業種にも、同じ原理が通ります。


反論に先回りしておきます

「うちは案件ごとに事情が違う」
——だからこそ例外を“記録する”。記録は次の標準を作る肥やしです。

「ベテランの勘が大事だ」
——同意です。その勘を言葉とデータに翻訳して、若手が追いつける仕組みにしましょう。

「ツールを入れる予算が…」
——最初はExcel+辞書+レビュー会で十分です。
大事なのは運用の型。ツールはあとからいくらでも置き換えられます。


結び:標準化は、現場を弱くしない

標準化は、現場から“自由”を奪うものではありません。
何に時間を使うかの自由を取り戻す取り組みです。
換算に悩む時間を削り、説得に使う根拠を増やし、迷った痕跡を次の正解に変える。

建設業から学んだこのやり方は、購買という営みがある限り、どの業種でも効きます。
さあ、まずは1カテゴリ・90日
“比べられる土俵”をつくり、あなたの組織の意思決定速度を、一段引き上げましょう。

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ベイカレントにてIT・業務改善・戦略領域のプロジェクトに従事。その後、株式会社ウフルにて新規事業開発を担当し、Wovn Technologiesでは顧客価値の最大化に取り組む。AIスタートアップの共同創業者としてCOOを務めた後、デジタルと人間の最適な融合がより良い社会につながるとの想いから、株式会社YOZBOSHIを設立。2022年2月より現職。