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AIは完璧じゃない。だから“人の判断”が価値になる。

1. 「AIに任せれば何とかなる」という期待と違和感

ChatGPTやGemini、Copilot…。
ここ数年で「AIに任せればだいたい何とかなる」という空気が一気に広がりました。

実際、メールの下書きや議事録の要約、資料のたたき台づくりなど、AIがやってくれることはどんどん増えています。
正直、人間が一からやるより、速いしそれっぽく見える。

でも、現場で深くAIを使い込んでいくほど、逆の感覚も強くなってきます。

「AIはすごい。でも“完璧”ではない」
「むしろ、人の判断の重みが前より大きくなってないか?」

この記事では、その違和感を少し分解しながら、
「AI時代にこそ、“人の判断”がどう価値になるのか」
を考えてみたいと思います。


2. AIの得意技と、どうしても苦手なところ

ざっくり言えば、今のAIはこんなことが得意です。

  • 大量の情報を一瞬で整理する
  • パターンを見つけて“平均的に良さそうな答え”を返す
  • 文章や数字の抜け漏れをチェックする

一方で、次のような場面になると、一気に怪しくなります。

  • 条件や利害関係が複雑に入り組んでいる
  • 「前回の経緯」や「社内の空気」を踏まえて判断が変わる
  • ルール通りだと正しいけれど、今回は例外対応した方が全体最適になる

建設業のバックオフィスや製造業の調達、
自治体の窓口業務などを見ていると、まさにここが“本丸”です。

見積書1枚をとっても、

  • 条件が少し変わるだけで、過去案件のどこを基準に考えるかが変わる
  • 相手企業や担当者との関係性で「今回はここまで頑張る」が変わる
  • 条文の一言で、リスクの取り方がまるっと変わる

こうした「文脈込みの判断」は、今のAIが一発で正解を出せる領域ではありません。


3. “人の判断”の正体は、思った以上に細かい

では、「人の判断」って具体的に何をしているのでしょうか。

現場の方々と話していると、こんな声をよく聞きます。

  • 「このパターンは前にトラブったことがあるから、余裕を多めに見ておく」
  • 「この条文の書き方だと、後から責任の押し付け合いになるので、事前に線引きしておく」
  • 「この病院さんはロット番号の書き方が特殊だから、ここは推測して補う」

これを細かく分解すると、

  • 過去トラブルの記憶を踏まえた“危険察知”
  • 利害関係者の立場を踏まえた“落としどころ探し”
  • 表現ゆれや書式の違いを補正する“翻訳作業”
  • 「今回だけの例外」を、将来のためにどうルール化するかという“設計”

など、実はかなり高度な知的作業です。

つまり、人の判断は「勘と経験」で片付けられるものではなく、

無数の小さなルール、例外、ちょっとした配慮の集合体

なんですよね。


4. AIが入ると、“人の仕事”の重みが増す理由

AIを本格的に業務に入れ始めると、
「人はどこに時間を使うべきか」が、いやでも見えてきます。

  • AIが作ったドラフトを“そのまま出す”のは危ない
  • でも、全部を人手でゼロからやるのは非効率
  • 結局、「最後の3割の判断」と「そもそものルール設計」が人の仕事になる

ここで問われるのは、

  • AIにどこまで任せていいのか
  • どこから先は必ず人が見るべきなのか
  • その線引きをどう設計し、どう運用するか

という“メタな判断”です。

この線引きが曖昧なままAIを入れると、

  • 「AIがこう出したから」で納得してしまい、誰も責任を持てない
  • 逆に、全部人がチェックする運用になって、負担だけ増える

という、誰も得しない世界になります。

AIを入れたからこそ、
「人が判断するポイント」をちゃんと定義しないといけない。

ここにこそ、“人の判断”の価値が浮き彫りになります。


5. 判断を「一度きり」で終わらせない、という発想

もう一つ、大事だと思っているのが、

“人の判断”を一度きりで終わらせない

という考え方です。

現場では、日々こんなことが起きています。

  • AIやシステムが出した候補を、人が見て微修正する
  • 例外パターンに遭遇して、担当者が頭をひねって落としどころを決める
  • 「次から同じミスをしないように」と、担当者の中だけでルールが更新される

でも、その判断がどこにも残らないと、

  • 担当者が変わった瞬間にナレッジが消える
  • 同じミスを別の現場で何度も繰り返す
  • AIもいつまでも“平均的な賢さ”から抜け出せない

という状態のままです。

本当は、

  • どの帳票で
  • どんなAIの提案に対して
  • 人がどう判断を変えたのか

を記録していけば、その「判断の軌跡」自体が強力な資産になります。

AIのアウトプットに、
人が「こう直した」という履歴が溜まれば溜まるほど、

  • 自社ならではの判断ルール
  • 特定業界に最適化されたナレッジ
  • ベテランの“目利き”のクセ

を、少しずつAI側に反映していくことができるはずです。


6. AI時代の“いい現場”とは

では、AI時代の“いい現場”って、どんな状態でしょうか。

僕は、次のような状態だと思っています。

  • AIが「たたき台」「下ごしらえ」を高速でこなしている
  • 人は「判断が必要なところ」に集中している
  • 人が行った微修正や例外対応が、ナレッジとして回収されていく
  • そのナレッジがまたAIやルールに反映され、全体が少しずつ賢くなる

ここでは、人は決してAIの“監視員”ではありません。
「この会社らしい判断」「この現場らしい優先順位」を決める“設計者・編集者”です。

だからこそ、AIが普及すればするほど、

「何を大事にするか」を決められる人の価値は、確実に上がる

と感じています。


7. おわりに:AIは完璧じゃない。でも、それでいい

AIは、これからも進化を続けます。
今は苦手な領域にも、少しずつ踏み込んでくるでしょう。

それでも、
「人の判断がいらない世界」が来るかというと、僕はそうは思っていません。

むしろ、

  • どんな判断をAIに任せるか
  • どんな判断は人が引き受けるか
  • その境界をどうデザインしていくか

を考え続けられる人・組織ほど、AIを味方にできる。

AIは完璧じゃない。
だからこそ、“人の判断”にこそ価値が宿る。

そして、その判断をちゃんと記録し、仕組みに乗せて、
次の現場へ、次の世代へと引き継いでいくこと。

そんな世界をつくりたくて、
僕たちは日々、バックオフィスや現場の仕事と向き合いながら、
AIとの付き合い方を模索しています。

AIを入れることがゴールではなく、
「人の判断がより活きる現場」をつくることがゴールだと考えています。

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ベイカレントにてIT・業務改善・戦略領域のプロジェクトに従事。その後、株式会社ウフルにて新規事業開発を担当し、Wovn Technologiesでは顧客価値の最大化に取り組む。AIスタートアップの共同創業者としてCOOを務めた後、デジタルと人間の最適な融合がより良い社会につながるとの想いから、株式会社YOZBOSHIを設立。2022年2月より現職。