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生成AIを“神格化”するのは、もうやめよう。―それは「新しい宗教」じゃなくて、ただの“道具”だ。

生成AIが話題になるたびに、空気が少し変になる。

「これで仕事は消える」
「人間より賢い」
「もう全部AIがやる時代だ」

もちろん、気持ちは分かる。
実際、生成AIは目に見えて“成果”を出す。文章が書ける。要約できる。企画も出せる。コードも書ける。しかも速い。

でも、ここで一度、冷静になった方がいい。

生成AIを“神格化”した瞬間、プロジェクトは失敗しやすくなる。
そして、現場が疲弊する。

技術はだいたい「名前を変えて」再登場する

これまでのITの歴史は、わりとシンプルだ。

  • ASP が SaaS になった
  • データセンター が クラウド になった
  • 検索 が ナレッジ活用 になった
  • RPA が 自動化プラットフォーム になった(言い方だけ豪華になる)

やっていることの“芯”が、いきなり別物になったわけではない。
技術は少しずつ改善され、提供形態が整い、使う側のハードルが下がった。結果として「使われるようになった」。

つまり多くの場合、“革命”というより 普及のタイミング だ。

生成AIもここに近い。
急に世界が変わったというより、「使える状態になって、誰でも触れるようになった」。


生成AIの正体は「すごい言葉のエンジン」だ

生成AIは、確かにすごい。
でも“すごさ”の中身を誤解すると危険になる。

生成AIがやっているのは、ざっくり言うとこういうことだ。

  • 過去に学習した膨大な文章パターンから
  • 「この文脈なら次に来る言葉はこれっぽい」を
  • 高速に選び続ける

だから、文章としてはそれっぽくまとまる。
提案書っぽいものも出せる。論理っぽく見せるのも得意。

ただし、ここに落とし穴がある。

生成AIは「分かっているように見える」だけで、保証はしない

  • 正しいかどうかは別
  • 事実確認は別
  • 現場固有の事情は別
  • 責任は取らない

この「それっぽさ」と「正しさ」を混同した瞬間に、事故が起きる。


神格化が始まると、よくある失敗パターンに入る

生成AI導入でよく起きる失敗は、技術の問題ではない。
期待の置き方の問題だ。

失敗パターン1:AIに“判断”までさせようとする

生成AIに任せるべきは、基本的に「作業」や「整理」だ。
でも導入側が盛り上がると、すぐにこうなる。

  • 見積の妥当性判断までAIに
  • 契約書のリスク判断までAIに
  • 社内ルールの例外処理までAIに
  • 現場の“暗黙”を読み取らせようとする

ここは人間の仕事が残る。というより、残って当然。
判断は「責任」とセットだからだ。

失敗パターン2:入力が雑でも“AIなら何とかする”と思う

生成AIは“雑な入力”にも付き合ってくれる。
でもそれは「解けた」ではなく、「それっぽく答えた」だけのことが多い。

  • ルールが曖昧
  • 前提が不足
  • 用語が統一されていない
  • データが欠落している

こういう状態で「AIに投げれば何とかなる」と期待すると、
結果はだいたい「出力の信頼性が揺れる」→「現場が使わない」になる。

失敗パターン3:成功の定義がない

生成AIプロジェクトは、PoCで盛り上がりやすい。
デモが映えるから。

でも、成功の定義が曖昧だとこうなる。

  • “便利”だけど定着しない
  • “それっぽい”けど使われない
  • “人が直す手間”が残って結局コスト増

重要なのは「出力」ではなく、運用まで含めた成果だ。


じゃあ生成AIは何が得意なのか?(現場目線)

神格化をやめると、生成AIはめちゃくちゃ強い道具になる。
得意な領域は明確だ。

1)文章・情報の「整形」「要約」「構造化」

  • 議事録を要点に整理する
  • 長文メールを短くする
  • 仕様書の論点を抜き出す
  • 複数資料を比べて差分を言語化する

これだけでも現場の時間はかなり削れる。

2)“たたき台”の高速生成

  • 提案書の骨子
  • 企画の案出し
  • 仕様の叩き
  • FAQの初稿

ポイントは「最初から完成品を求めない」こと。
たたき台として使うと最高に速い。

3)人が判断するための「材料集め」

生成AIは判断の代替ではなく、判断の前の準備を爆速にする。

  • 情報を集める
  • 論点を整理する
  • 選択肢を並べる
  • リスク観点を列挙する

最後に判断するのは人間。
でもその前段はAIが肩代わりできる。


「ASP→SaaS」「データセンター→クラウド」と同じ話

ここで最初の話に戻る。

ASPもクラウドも、登場初期は誤解されていた。

  • “入れれば業務が勝手に良くなる”と思われた
  • “導入すれば生産性が上がる”と思われた
  • “人がいらなくなる”みたいに語られた

現実は違った。

業務が良くなるのは、
設計が変わった時であり、
運用が回る状態を作った時だ。

生成AIも同じ。
入れただけでは何も変わらない。


生成AI導入で本当に大事なことは「境界線」だ

結局、成果が出るかどうかはここに尽きる。

AIに任せるべき領域

  • 反復
  • 整形
  • 要約
  • 検索
  • たたき台
  • 事務的な判断(ルールが明確)

人が担うべき領域

  • 例外処理
  • 現場の文脈理解
  • リスク判断
  • 最終責任
  • 会社固有のルール(暗黙知)

そして現実には、この境界線のところに一番コストがある。
「ルールが曖昧」「例外が多い」「判断が属人」の場所だ。


だからこそ、生成AIの価値は「判断の再現」に向かう

生成AIは万能ではない。
でも、現場の一番しんどい場所に近づける方法がある。

それは、

  • 人の判断をログとして残し
  • 判断の前提・条件を整理し
  • 例外を分類し
  • “再現できる形”にする

こうして初めて、AIが“運用に耐える”領域が広がる。

つまり、生成AIの未来は「全部置き換える」ではなく、
判断を再現できる範囲を少しずつ増やすことにある。


神格化をやめた瞬間、生成AIは最強の道具になる

生成AIは革命ではない。
正確には、「革命として語りたくなるほど便利な道具」だ。

  • 魔法ではない
  • 神ではない
  • でも、使い方次第で現場の時間を取り戻せる

神格化をやめよう。
代わりに、境界線を引こう。

「どこまでAIに任せるのか」
「どこから人が責任を持つのか」

それを整理した会社だけが、生成AIを武器にできる。

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ベイカレントにてIT・業務改善・戦略領域のプロジェクトに従事。その後、株式会社ウフルにて新規事業開発を担当し、Wovn Technologiesでは顧客価値の最大化に取り組む。AIスタートアップの共同創業者としてCOOを務めた後、デジタルと人間の最適な融合がより良い社会につながるとの想いから、株式会社YOZBOSHIを設立。2022年2月より現職。